1 はじめに
法律で加入することが義務づけられている自動車賠償責任保険(以下「自賠責保険」といいます。)より、事故の被害者に対して支払われる金額は、多くの場
・・・(続きはこちら) 1 はじめに
法律で加入することが義務づけられている自動車賠償責任保険(以下「自賠責保険」といいます。)より、事故の被害者に対して支払われる金額は、多くの場合、弁護士が関与して保険会社と示談する場合の金額や、裁判で支払を命じられる金額よりも低いことが多いのが実情です。
しかし、裁判において、自賠責保険の保険会社を被告として自賠責保険からの支払を求めることにより、一般的な自賠責保険の金額よりも高い金額が、保険会社より支払われることがあります。
2 自賠責保険からの支払金額が低額となる理由
自賠責保険と、弁護士が関与して示談する場合や裁判の場合の金額とで大きく異なるのは、多くの場合、入通院に対する慰謝料の金額となります。
自賠責保険は、事故日から治療終了日(終了日において「(治療の)中止」とされた場合は、終了日より7日後の日)までの日数と、同期間の通院日数を2倍した日数を比較して、低い方の日数に、4300円を乗じた金額を入通院に対する慰謝料として支払います。
例えば、1月1日に事故に遭い、2月28日に治癒とされ、その間、合計20日間通院した場合、期間の59日よりも、通院日数20日×2=40日のほうが少ないので、この場合の自賠責保険における入通院慰謝料は、4300円×40日=17万2000円となります。
これに対し、弁護士が関与しての示談や、裁判所の判決は、通院日数ではなく通院期間に基づいて慰謝料額を算定します。
交通事故の一般的なけがである、頸椎捻挫や腰椎捻挫の治療のために1か月通院した場合の慰謝料の基準額は、裁判の場合が36万円、示談の場合がこの8割程度の28万8000円程度となることが多いので、自賠責保険よりも高い慰謝料額が支払われることになります。
3 自賠責保険の慰謝料額を増額する方法
最高裁の判例において、裁判(訴訟)において自賠責保険の保険会社に対し、事故による損害額の支払を求めた場合には、上記自賠責保険の算定基準ではなく、裁判での基準と同じ算定方法によるべきとされています。
このため、裁判で自賠責保険の保険会社に対し慰謝料の支払を求めた場合には、上記の17万2000円ではなく、36万円が支払われることになります。
4 注意事項
ただし、裁判を通じて自賠責保険の保険会社に支払を求める場合、注意すべきことが2つあります。
1つめは、過失相殺による減額です。
自賠責保険の場合、被害者の過失割合が7割より小さければ、過失相殺はされず、過失割合が7割とされた場合でも、自賠責保険の基準の2割の減額にとどまるのに対し、裁判での基準では、過失割合が少しでもあれば、その分、過失相殺により減額されることになります。(なお、後遺障害に対する自賠責保険からの支払については、2割よりも高い割合で減額されることがあります。)
このため、上記の自賠責保険の慰謝料が17万2000円、裁判での慰謝料が36万円での事例において、被害者の過失割合が7割とされた場合、
自賠責保険:17万2000円×8割(2割減)=13万7600円
裁判:36万円×3割(7割減)=10万8000円
となり、裁判での支払額ではなく、自賠責保険からの支払額のほうが多くなります。
この場合は、裁判をすることは、かえって不利益になります。
2つめは、けがによる自賠責保険の保険金支払の上限が120万円とされていることです。
このため、治療費や休業損害など、慰謝料以外の項目の金額が多額となる事案では、裁判を通じて請求したとしても、裁判での基準の慰謝料額を受領できない場合があります。
例えば、治療費その他の慰謝料以外の費用が100万円となり、これが先に自賠責保険より支払われた場合、自賠責保険からの慰謝料額の支払は、過失割合がない場合でも、120万円-100万円=20万円が上限となります。
5 おわりに
裁判を通じて自賠責保険の保険会社に対し支払を求める場合、裁判の手続自体が難しいことのほかに、上記の注意事項にてご説明したとおり、事案によってはかえって不利になる場合もあります。
専門家である弁護士にご相談されることをお勧めします。