1 私たち弁護士が、相手方保険会社と交通事故の損害賠償について交渉する際、弁護士側は裁判基準(裁判所で一般的とされる損害賠償の基準)によるのに対し、保険会社側
・・・(続きはこちら) 1 私たち弁護士が、相手方保険会社と交通事故の損害賠償について交渉する際、弁護士側は裁判基準(裁判所で一般的とされる損害賠償の基準)によるのに対し、保険会社側は自賠責基準(自動車賠償責任保険における基準)によるのが通常です。
その理由は、一般的には、裁判基準のほうが高額な賠償額となるためです。
2 例えば、事故後1か月間、頸椎捻挫(むち打ち症)の治療のために通院したことに対する慰謝料を算定する場合、裁判基準では19万円が目安となります。
これに対し、自賠責基準では、1日当たりの金額を4300円とし、これに通院日数の2倍の日数を乗じた金額と、通院期間の日数(1か月通院した場合は、1か月間の日数。ただし、診断書の欄の「中止」に○がついている場合は、)を乗じた金額との、いずれか低い方の金額を支払うこととされています。
仮に、1か月の間に8日間通院したとした場合は、8日×2倍×4300円=6万8800円となり、裁判基準の方が自賠責基準よりも高額とになります。
3 しかし、自賠責基準にて算定した金額のほうが、裁判基準で算定した金額よりも高額となる場合があります。
これは、次の2点が理由です。
⑴ 裁判基準では、双方に過失がある場合は必ず過失相殺(過失の程度に応じた減額)がされるのに対し、自賠責基準の場合は、被害者保護のため、過失割合が7割以上の場合を除き、被害者に過失があっても減額されないこと。
⑵ 通院慰謝料の算定方法について、自賠責基準は、通院期間の日数により算定するため、通院日数が多い場合、裁判基準による慰謝料に近づく場合があること。
4 具体例により説明します。
わかりやすくするため、損害の項目は医療費と治療のみとします。
⑴ 頸椎捻挫の治療のため、180日(6か月)の間、合計95日通院。
⑵ 治療費は60万円、被害者の過失割合は3割(裁判基準の場合、損害合計額の2割が減額される)
⑶ 通院日数は95日、通院期間の合計日数は180日(3か月)。
⑷ 裁判基準での慰謝料は、89万円となります。
自賠責基準での慰謝料は、通院日数を2倍した日数は190日となり、通院期間の合計日数である180日を超えるので、自賠責基準による慰謝料は4300円×180日=77万4000円
ここまでは、裁判基準による慰謝料が、自賠責基準
による慰謝料を上回っています。
5 しかし、過失相殺について、裁判基準では必ずされるのに対し、自賠責基準では、上記のとおり、過失割合が7割以上ある場合でないと過失相殺はされないところ、本件は、過失割合は2割にとどまるので、自賠責基準では過失相殺がされない場合に当たります。
この結果、最終的な賠償額は以下のとおりとなります。
⑴ 裁判基準
(治療費60万円+慰謝料89万円)×0.7(過失相殺)=104万3000円
⑵ 自賠責基準
過失相殺がされないので、治療費60万円+慰謝料77万4000円=137万4000円ですが、けがによる自動車賠償責任保険の上限額は120万円であるため、120万円にとどまります。
しかし、それでも、裁判基準を上回る金額となります。
6 上記のように、過失相殺がされる事案によっては、自動車賠償責任保険からの支払額のほうが、裁判基準による支払額を上回る場合があります。
過失割合が大きい事案では、相手方に請求するよりも、自動車賠償責任保険からの支払を受けた場合が有利な場合があります。
ただし、自動車賠償責任保険からの支払を受けるためには、いったん、被害者自らが医療費などの支払をし、その領収書の原本を同保険に提出する必要がある(いったんは被害者自身が支払をする必要がある)ので、注意が必要です。
7 これまでにご説明したとおり、請求先や基準が異なることにより、得られる賠償額が異なりますので、もし事故に遭われた場合は、弁護士にご相談されることをお勧めします。