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頸椎捻挫と後遺障害

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1 はじめに
 交通事故によるけがの治療を続けても、回復の見込みがないとされる症状が残った場合、これが後遺障害と呼ばれる状態となります。
 その中で、一番数が多いと思われるのが、頸椎捻挫による頚部の痛みですが、損害賠償の対象となる後遺障害と認められるためには、原則として、自動車賠償責任保険において定められた後遺障害の等級(類型)に該当するものと認められる必要があります。
 多くの場合、該当するとされた場合の等級は、14級9号の「局部に神経症状を残すもの」です。

 

2 後遺障害が認定されるための基準
 では、どのような症状や状態になれば「局部に神経症状を残すもの」に当たるかですが、明確な基準は不明というのが正直なところです。
 これは、上記の「神経症状」が、痛みなどの目に見えない症状であることによります。
 例えば、「関節の機能に障害を残すもの」であれば、障害のない同一の関節との可動域を比較し(例:左膝に障害が残ったのであれば、障害のない右膝の関節との可動域を比較する。)、障害のある方の関節の可動域が、障害のない関節の可動域と比べ4分の1以上、可動域が制限されていれば、「関節の機能に障害を残すもの」として後遺障害に該当することにつき、数値で判断することができます。(例:健康な右膝の可動域が100度であるのに対し、障害のある左膝の可動域が75度以下である場合など。)
 これに対し、痛みなどの神経症状は、目に見えるものではないため、上記のような客観的な基準を定めることができません。

 

3 認定される事例の傾向
 このように、明確な基準を定めることができないため、私たち弁護士が依頼者より「頚部・腰部の痛みの症状が、自動車賠償責任保険における後遺障害に該当するか。」との質問を受けても、確実なお答えをすることは難しいのが正直なところです。
 ただ、これまでの多数の案件に関わってきた経験に基づくものとして、後遺障害に認定されるための要素として、以下のものを挙げることができるのではないかと考えています。


 ⑴ 単なる痛みだけではなく、腱反射の異常など、神

経の異常を窺わせる症状が認められること。


 ⑵ 治療を続けても症状が改善しないことの確認として、半年以上の治療を経ても症状が改善しないこと。
  治療期間が半年よりも短い場合、「改善の見込みがないとはいえない」との理由により、後遺障害等級に該当しないとされることが多くなります。


 ⑶ 車両同士の事故である場合、車両の損傷が大きいこと(修理費用が高額であること)。
   車両の損傷が大きいほうが、車両ひいては身体に係る衝撃が大きく、身体の損傷もこれに比例するとの考えに基づくものと思われます。


 ⑷ 若年者ではないこと。
   若年者の場合、回復の見込みが大きいとされているようです。

  ただし、後遺障害に該当するとされるかの判断は、あくまで上記の要件を総合的に考慮しての判断であり、単純に上記のいずれかの要件を充たせば認定される、というわけではないことについてもご留意ください。

 

4 終わりに
 頚部や腰部の痛みを理由とする後遺障害の認定について、上記のとおり、様々な要素を勘案して検討されることになります。
 専門家である弁護士にご相談されることをお勧めします。
 

自動車賠償責任保険からの支払額が、裁判所の定める金額を上回る場合

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1 私たち弁護士が、相手方保険会社と交通事故の損害賠償について交渉する際、弁護士側は裁判基準(裁判所で一般的とされる損害賠償の基準)によるのに対し、保険会社側は自賠責基準(自動車賠償責任保険における基準)によるのが通常です。
 その理由は、一般的には、裁判基準のほうが高額な賠償額となるためです。

 

2 例えば、事故後1か月間、頸椎捻挫(むち打ち症)の治療のために通院したことに対する慰謝料を算定する場合、裁判基準では19万円が目安となります。
 これに対し、自賠責基準では、1日当たりの金額を4300円とし、これに通院日数の2倍の日数を乗じた金額と、通院期間の日数(1か月通院した場合は、1か月間の日数。ただし、診断書の欄の「中止」に○がついている場合は、)を乗じた金額との、いずれか低い方の金額を支払うこととされています。
 仮に、1か月の間に8日間通院したとした場合は、8日×2倍×4300円=6万8800円となり、裁判基準の方が自賠責基準よりも高額とになります。

 

3 しかし、自賠責基準にて算定した金額のほうが、裁判基準で算定した金額よりも高額となる場合があります。
 これは、次の2点が理由です。
 ⑴ 裁判基準では、双方に過失がある場合は必ず過失相殺(過失の程度に応じた減額)がされるのに対し、自賠責基準の場合は、被害者保護のため、過失割合が7割以上の場合を除き、被害者に過失があっても減額されないこと。
 ⑵ 通院慰謝料の算定方法について、自賠責基準は、通院期間の日数により算定するため、通院日数が多い場合、裁判基準による慰謝料に近づく場合があること。

 

4 具体例により説明します。
  わかりやすくするため、損害の項目は医療費と治療のみとします。
 ⑴ 頸椎捻挫の治療のため、180日(6か月)の間、合計95日通院。
 ⑵ 治療費は60万円、被害者の過失割合は3割(裁判基準の場合、損害合計額の2割が減額される)
 ⑶ 通院日数は95日、通院期間の合計日数は180日(3か月)。
 ⑷ 裁判基準での慰謝料は、89万円となります。
   自賠責基準での慰謝料は、通院日数を2倍した日数は190日となり、通院期間の合計日数である180日を超えるので、自賠責基準による慰謝料は4300円×180日=77万4000円
  ここまでは、裁判基準による慰謝料が、自賠責基準

による慰謝料を上回っています。

 

5 しかし、過失相殺について、裁判基準では必ずされるのに対し、自賠責基準では、上記のとおり、過失割合が7割以上ある場合でないと過失相殺はされないところ、本件は、過失割合は2割にとどまるので、自賠責基準では過失相殺がされない場合に当たります。
 この結果、最終的な賠償額は以下のとおりとなります。
 ⑴ 裁判基準
  (治療費60万円+慰謝料89万円)×0.7(過失相殺)=104万3000円
 ⑵ 自賠責基準
   過失相殺がされないので、治療費60万円+慰謝料77万4000円=137万4000円ですが、けがによる自動車賠償責任保険の上限額は120万円であるため、120万円にとどまります。
   しかし、それでも、裁判基準を上回る金額となります。

 

6 上記のように、過失相殺がされる事案によっては、自動車賠償責任保険からの支払額のほうが、裁判基準による支払額を上回る場合があります。
 過失割合が大きい事案では、相手方に請求するよりも、自動車賠償責任保険からの支払を受けた場合が有利な場合があります。
 ただし、自動車賠償責任保険からの支払を受けるためには、いったん、被害者自らが医療費などの支払をし、その領収書の原本を同保険に提出する必要がある(いったんは被害者自身が支払をする必要がある)ので、注意が必要です。

 

7 これまでにご説明したとおり、請求先や基準が異なることにより、得られる賠償額が異なりますので、もし事故に遭われた場合は、弁護士にご相談されることをお勧めします。
 

ドライブレコーダーの必要性について

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1 ドライブレコーダー(以下「ドラレコ」といいます。)が一般車両に搭載されるようになってから、それなりの期間が経ったためか、ご依頼をいただいた案件の中で、ドラレコの画像を見て検討すべき案件が増えてきた感じがします。
 ただ、カーナビに比べると、まだ普及の割合が低いような感じがします。

 

2 自動車事故における、各当事者の責任を明らかにするためには、なによりも事故の状況をきちんと把握することが必要です。
 ドラレコが搭載される前は、各当事者の供述と、事故現場に残された痕跡(ブレーキ痕など)及び車両の損傷箇所・状況により、事故状況を判断していました。
 このことは、今でも変わらないのですが、供述は、記憶違いや思い込みなどにより正確ではない場合がありますし、現場の痕跡は、これがない場合のほうがむしろ多いです。
 これに対し、ドラレコは、カメラに収まる範囲ではあるものの、事故の一部始終を明らかにしてくれるので、上記の問題を一気に解決してくれる、画期的なものです。

 

3 どのような事故でも、ドラレコの画像の正確性は大変役に立ちますが、その中でも主立ったものをあげるとすれば、やはり交差点内での事故かと思います。
 相互の車両の動きや、信号表示が記録されることで、事故の状況把握に大変役立ちます。
 信号表示については、画像以外の方法により確実な立証をしようとした場合、目撃者の証言に頼るほかありませんが、目撃者がいないことのほうが多いので、ドラレコのあるなしは大きな影響を及ぼします。

 

4 ただ、残念なことに、運転前に、ドラレコの操作方法を確認していなかったため、せっかく事故の状況が録画されたのに、その後にデータが上書きされてしまい、役に立たなかったという事案が何件かありました。
 いざというときのデータの保存方法と取り出し方法は、きちんと確認していただきますよう、お願いします。
 また、画像だけでなく、音も重要です。
 一例として、ウインカーを出しているかどうかにより、事故の責任割合が異なる場合があります。録音がオンとなっていれば、ウインカーの点滅音が記録されるので、ウインカーを出していたことの立証ができますが、オフになっていると、この立証ができなくなってしまいます。
 ドラレコは、録画だけではなく、録音もできる状態で使用してください。

 

5 私たち弁護士としては、事実をきちんと把握した上で、法に従った適切な解決方法を見つけることをモットーにしています。
 ドラレコは、上記のために必要不可欠な機器であることを理解していただけると幸いです。

                                                                            

症状固定日について

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1 症状固定の意味
 症状固定とは,治療を続けても症状の改善が見込まれない状態をいいます。
 一般的には,後遺障害診断書に医師が記載した症状固定日をもって,症状固定日とされますが,裁判等において,相手方がこれと異なる日を主張したり、裁判所が上記記載と異なる判断をすることもあります。

 

2 症状固定日が問題となる理由
 上記のように,症状固定日について争いとなる理由は,交通事故の加害者としては,原則として症状固定日までの医療費を負担すれば足り,同日よりも後の医療費を負担する義務はないことによります。
 症状固定は「治療を続けても症状の改善が見込まれない状態」ですので、この後に医療費を費やしたとしても治療効果は見込めず、そのような無益な費用を加害者(相手方)に負担させるべきではないことによります。
 また,入通院慰謝料についても,事故発生日から症状固定日までの期間を前提に算定することとされているため,より手前の日について症状固定日であるとされたほうが,加害者にとって有利となります。

 

3 どの日を症状固定日とするかについて
 上記のとおり,症状固定とは治療を続けても症状の改善が見込まれない状態をいうことから,症状固定日は,上記状態に達した日,ということになります。
 しかしながら,症例の多くは,徐々に症状の改善が進み,ある一定の時期に,受診を継続するも,改善が見込まれない状態になるという経過をたどります。
 症状固定か否かの判断については,その性質上,これより前の状態と比較しながら判断するしかありません。
 このため,ある日を境として急に症状固定に至るということはまずありませんし,症状固定とするか否かにつき見極めるための一定の期間を要することについても,やむを得ないものと考えます。

 

4 被害者として留意すべきこと
 症状固定の判断に際しては,症状の改善の推移が把握できることが前提となります。
 このため,むやみな転医は避けてください。
 また,頸椎捻挫などのように,外部から症状を把握しづらい症例については,ご自身の症状について,なるべく正確に医師に伝え、これをカルテ(医療記録)に記載しておくことが,症状固定の状態を正確に把握するために必要となります。
 ただ漫然と診察を受け続けるのではなく、ご自身の状態を、医師に伝え記録に残してもらうように心がけてください。
 

事件と弁護士費用

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1 事件解決を弁護士に依頼する際、その費用として真っ先に皆様が思い浮かべるのは、弁護士に対する報酬(以下「弁護士報酬」といいます。)ではないかと思います。
  実際、これから述べる事件解決に必要な費用のうち、弁護士報酬が大きな割合となるのは確かです。

 

2 しかしながら、契約する弁護士や事務所の方針にもよりますが、実際には、事件解決までに、弁護士報酬以外にも、以下のような費用が発生します。
 ⑴ 書類作成、送付に係る費用(コピー代、郵送費用など)
 ⑵ 現場や裁判所などへの移動に際しての交通費、日当
 ⑶ 事故の状況図作成や専門家の意見に基づく文書を作成する際、外部機関(調査会社など)に支払う費用
  上記の費用のうち、⑵及び⑶は、相手方との協議がうまくいかず、裁判所に対する訴えを提起した場合に発生することが多く、逆に話し合いにより解決できるのであれば、⑴のみか、⑶のうち現場確認とその図面作成のための費用(例えば、事故現場において、事故関係者による事故の状況についての説明に基づき、事故の状況図を作成する場合など。事案にもよりますが、数万円程度。)くらいで済みます。
  しかし、裁判となり長期間争われる場合には、裁判の期間に応じて、その費用は増えることとなり(裁判を続けることによる書類の費用や、裁判所への出頭費用が増加するため。)、⑶のうち専門家の意見に基づく文書を作成する場合は、数十万円あるいはそれを超える費用を要する場合があります。
  「裁判には時間とお金がかかる」のは事実であり、これを避けるために、裁判にまで至る前に話し合いによる解決に向けた努力がされるわけです。

 

3 また、一定の結論を得るに当たり、高額であってもその費用の支出が不可欠となる場合があります。
  上記⑶の図面や文書の作成にかかる費用がそれであり、その内容が事件の結論を左右することがあります。
  私が経験した裁判の事例では、通常の玉突き事故(通常は死亡にまで至ることがない事故)であるにもかかわらず、事故の数日後に被害者が死亡したところ、その死因を巡り、事故が原因なのか、それとも被害者の持病である心臓疾患が原因であるのかが争われた事例がありました。
  上記の死亡原因について、地裁は事故が原因であるとしましたが、高裁において、心臓疾患による死亡としても被害者の身体の状況(解剖結果)と矛盾しないとの専門家の意見書を提出したところ、裁判所もこれを認め、最終的な解決となりました。
  この事例では、専門家の意見書が解決に不可欠であったわけですが、そのために高額な費用を要したことも事実であり、当該費用の支出なくしての解決は見込めない事案でした。

 

4 このように、紛争解決までには、弁護士に対する報酬以外にも様々な費用がかかります。
  また、事件解決のためには、弁護士報酬のみならず、上記3のような、専門家への費用支払が必要となる場合もあります。
  事件解決のために一定の費用を要する場合、これを支払うことができない場合は、正しい結論が得られないという事態もあり得ます。(上記3の事例で、専門家の意見書が提出されなかった場合など。)

 

5 そこで、ご加入の保険契約に弁護士費用特約がある場合には、ぜひ加入されることをお勧めします。
  弁護士に依頼する際の費用負担が避けられるだけではなく、事件解決に必要な費用の備えにもなるためです。
  依頼を受ける弁護士の立場としても、事件解決に必要な費用が工面できず、本来得られるべき結論が得られないような事態は、できれば避けたいものです。
  「適切な解決を得るための備え」として、弁護士費用特約への加入をご検討いただければと考えます。

過失割合について

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過失割合について

 

1 過失割合とは何か
 過失割合とは、事故に対する、当事者双方の責任の割合を示したものになります。
 全体の責任割合を10あるいは100として、そのうち各当事者がどの程度の責任を負うべきかが示されます。
 例えば、A車とB車が衝突し、各運転手に50万円の損害(治療費)が発生した事故において、過失割合がA車とB車共に50(過失割合の合計は100)とされた場合は、A車とB車は、共に、相手方に対し25万円(=50万円×50÷100)を支払えば済むことになります。
 A車が0、B車が100(B車のみが責任を負う事故)であれば、A車は50万円の治療費の全額を賠償してもらえるのに対し、B車は、相手方からの賠償を受けることができず、治療費は自分で負担しなければならないことになります。

 

2 過失割合の定め方
 交通事故は、これまでに多数の事故が発生し、かつ、これに対する裁判所の判断が積み重ねられてきています。
 同じ類型や態様の事故であるにもかかわらず、裁判所ごとに判断が異なっていたのでは、不公平になります。
 このような事態を避けるために、事故の類型ごとに、過失割合がどうなるかについてまとめられた書籍が発行されています(判例タイムズ社発行の「過失相殺率の認定基準」)。
 この書籍は、法律そのものではありませんが、交通事故を専門的に扱う裁判所の部署に属する現職の裁判官が作成に携わっていることから、実際の裁判における一般的な基準として用いられています。
 また、その前段階での事故当事者間の交渉や、保険会社とのやりとりなどにおいても、上記書籍を基に過失割合が検討されており、過失割合を検討するにあたり必須の資料となっています。
 
3 過失割合の修正
 もっとも、全ての事故が、上記書籍に記載されたいずれかの類型に該当するとは限りません。何事にも、例外は存在します。
 このような場合は、過去の裁判例を調べたり、比較的似ていると思われる類型の過失割合と比較しながら、検討していくことになります。
 また、ある類型に該当していたとしても、著しい速度違反があるなどして、標準的な過失割合が変更される場合があります(例えば、本来はAが20、Bが80の過失割合であるところ、Aに著しい速度違反がある場合、Aを30、Bを70とする場合など。)。
 過失割合について一定の類型化がされていますが、なお、個々の事故の態様に応じて個別的に検討すべき必要性が全くないというわけではありません。
 また、速度超過の有無や、事故発生時の信号の表示が何色であったか(青なのか、赤なのかなど)といった、過失割合の前提である事実の有無それ自体を巡り、深刻な争いとなることも珍しくありません。

 

4 まとめ
  一定の類型化がされているとはいえ、過失割合についての判断には、様々な検討を要する場合があります。
  お困りの場合は、ぜひ当事務所の弁護士までご相談ください。
 

交通事故における示談の際の基準について

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1 交通事故のあと、保険会社から示された示談金の額が妥当な額であるかについてご相談を受ける際、相談者の方より「弁護士基準で示談できるか?」といったご質問を受けることがあります。
  ネットなどでは、示談に際し、異なるいくつかの基準があるとしているものがあるようです。

 

2 しかしながら、何らかの区分がされた基準があるわけではありません。
  順を追って説明すると、以下のとおりとなります。

 

 ⑴ まず、基準となるのは、裁判となった場合の基準です。
   交通事故は、他の類型の事件に比べ、日本全国、多数の  事故が発生し、事件同士の比較が可能な事件といえます。
   このような事件において、裁判所の考え方次第で、同じような事故であるにもかかわらず、異なる判断がされたのでは、不公平になってしまいます。
   そのため、事故の態様に応じた過失割合や、通院期間や後遺障害の程度に応じた慰謝料の目安が考案され、公刊されています。
   赤本と呼ばれる、赤い表紙の本が代表例ですが、この本については、少なくとも東京周辺の裁判所、弁護士事務所及び保険会社に参照され、交通事故の解決に携わる者であれば、必ず把握すべき内容となっています。

 

 ⑵ しかし、上記の基準は、あくまで裁判になった場合の基準であり、示談が成立する場合は、裁判の基準よりも若干減額された金額となることが通常です。
   これは、お互いが譲歩して早期解決を図るという示談の性質のほかに、裁判における基準が、最後の手段である裁判にまで至ったことによる、労力や時間を要したことを考慮して定められているため、裁判の手前で無事解決したのであれば、その分を減額すべき、との考えによるものです。

 

 ⑶ これらとは別に、自動車賠償責任保険(以下「自賠責」といいます。)による基準があります。
   自賠責の保険金支払基準は、自動車事故に対し最低限の保障を行うとの自賠責制度の目的のため、上記の各基準よりも低い金額にとどまるのが一般的です。
   ただし、同保険の特殊な規定として、原則として過失相殺はしない、過失相殺がされる場合でも一般的な過失割合よりも低い割合での減額にとどめるとの規定があるため、被害者側の過失割合が高い場合には、過失相殺を考慮した一般的な示談の基準よりも、同保険の基準により算定した金額のほうが高くなることがあります。

 

3 ネットで見受けられる弁護士基準は、多くは⑵の場合を指すようですが、なぜ、このような呼び方ができたかというと、弁護士が関与しない状態で、一般の方が保険会社相手に示談を求めた場合、⑵よりも低い金額か、場合によっては最低基準である自賠責の基準に基づく金額しか示されないことが多いところ、これが、弁護士に依頼することにより、⑵の金額に増額される場合が多いことから、この増額後の金額に対し「弁護士基準」との呼ばれ方が生じたのではないか、と考えます。
  本来は、弁護士関与の有無にかかわらず、自賠責の基準ではなく、一般的な示談の基準で示談がされるべきです。
  しかし、一般の方々が「どの程度が妥当な金額か」を書物やネットの知識だけで判断することは難しい一方、保険会社は、被害者に対する支払をなるべく抑えたいと考えることから、上記のような現象が起きてしまっています。

 

4 保険会社から示された示談金が妥当かについて、ご相談を受け、当方が対応した結果、増額されたケースが複数あります。
  最近のケースでは、当初提示額は300万円弱であったものが、一般的な示談の基準により算定し直し、提示した結果、1000万円を超える金額にまで増額され、無事示談することができたケースがありました。
  保険会社から示談金が提示された場合、弁護士にご相談することをお勧めします。
 

相手方保険会社からの治療費支払い打ち切りについて

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1 弁護士として交通事故の事件を担当している中で、よくある相談が「相手方の保険会社より、治療費の支払を打ち切るとの連絡(以下「打ちきり連絡」といいます。)が来た。どうしたらよいか。」というものです。
  今までは、保険会社が医療費を支払っていたので、被害者による治療費の支払は必要なかったのに、これが打ち切られてしまうと、治療が受けられなくなってしまうのではないか、と心配される方もいるようです。

 

2 まず、結論から申し上げますと、打ちきり連絡に対し、法的に対抗できる手段はありません。
  相手方あるいはその保険会社には、最終的に必要な賠償額を支払う義務や、判決となった場合、あるいは被害者との間で遅延損害金についても支払うことが合意された場合には、損害元金の他に遅延損害金を支払わなければならないという義務はあるものの、これを常に前倒しで支払わなければならない義務があるとまではいえないためです。
  ただし、「全て損害額が確定した後で支払う」としたのでは、多くの被害者が困窮してしまうのも事実であり、相手方保険会社が治療費を支払う目的の一つに、被害者保護という目的があることは間違いありませんが、このほかに、その後の交渉を円滑に進めるために支払う、という目的もあります。
  保険会社からの治療費の支払は、法的義務というよりは任意のサービスと捉えた方が実態に即していると思います。

 

3 唯一、強制力のある法的手段として、裁判所に仮処分の申立てをし、判決が出る前に仮に支払えとの決定を出してもらう、という方法があります。
  しかし、この方法は、一般の方がご自身で行うには負担が重いこと、判決よりは早い解決を目指すこととされてはいるものの、裁判所の判断が出るまで一定の時間を要することからすると(事案にもよりますが、数か月程度はかかることが多いです。)、速効性や実効性のある方法とはいえないと考えます。

 

4 そこで、打ちきり連絡がされた場合、一般的にとる手段は、次のとおりとなります。
 ⑴ 主治医に、治療継続の必要性や、今後の治療期間の見通しなどを記載した診断書を作成してもらい、これを相手方保険会社に提出し、打ちきりについて再検討してもらう。
 ⑵ 「あと1か月」などと期間を区切って、相手方保険会社からの治療費支払期間を延長してもらう。
   打ち切り連絡がされる理由の一つに、何らのめどもないまま治療期間が継続することを防ぎたいという目的があり、このような場合には、期間を区切っての延長であれば、相手方保険会社が延長に同意することがあります。
 ⑶ 上記⑴、⑵による延長がされない場合は、ご自身の保険(健康保険、労災保険及び人身傷害保険のいずれか)を使って通院をすることになります。
   保険を使わずに、被害者自身が医療費を支払い、その後にこれを加害者あるいは自動車賠償責任保険に請求することもできないわけではありませんが、一時的にせよ、被害者自身が費用を支払うことにより、被害者の経済的負担が重くなるので、現実的ではないと思います。
   上記の各保険を使う場合、注意点は以下のとおりです。

 

  ア 人身傷害保険は、ご自身が加入する自動車保険に人身傷害保険の特約が付されている場合など、ご自身が保険会社との間で人身傷害保険の契約をしている場合に限られます。
    保険会社との契約がない場合は、人身傷害保険は使用できません。

 

  イ 労災保険は、お勤めになる会社の勤務中あるいは通勤途中の事故についてのみ使用可能であり、これらに該当しない場合は、健康保険により受診することになります。
    健康保険が使用できる場合と、労災保険が使用できる場合は明確に区別されており、両方を使うことはもちろん、本来は労災保険を使用すべき事故(勤務中あるいは通勤途中の事故)につき、健康保険を使うことはできませんので、ご注意ください。

 

  ウ 労災保険の場合は、労働基準監督署に所定の書類を提出して申請することになりますが、書類の作成に際しお勤め先の会社の確認が必要となりますので、会社の担当者に確認してください。
    また、健康保険の場合は、国民健康保険であればお住まいの市区町村に対し、それ以外の健康保険であれば加入する健康保険組合に対し、「第三者行為による傷病届」(事故によりけがをしたこと、事故の相手方の氏名住所などの届け出)をする必要があります。
    そして、これ以外に、事故証明など、他の書類が必要となることが一般的ですが、どのような書類が必要かにつき、市区町村あるいは健康保険組合ごとに異なりますので、健康保険の担当者にお尋ねください。
    上記の書類を求められる理由は、医療費の一部を健康保険が負担しますが、これにつき、健康保険から事故の加害者に対し、上記負担分の支払を求めることができるとされており、そのためには、傷病届における記載事項が必要となるためです。
    なお、労災保険や人身傷害保険においても、保険から相手方に請求できることとされています。

 

  エ 事故発生日から一定期間が経過した後に健康保険あるいは労災保険を使用する場合、相手方保険会社のみならず、健康保険などにおいても「必要な治療期間を経過している」として、保険の使用を断られる場合があります。
    この場合は、自費で治療を継続するか、治療を終了して後遺障害の申請あるいは相手方との賠償額の交渉に移ることになります。

 

5 打ち切り連絡に対する説明は以上となりますが、お困りの場合は、弁護士にご相談ください。
 

経済的全損について

カテゴリ: その他

1 交通事故により車両が損傷した場合、修理費用が、事故当時の被害車両の価格を超えてしまう場合があります。
  このような状態を経済的全損といいます。
  全損とは、対象物が完全に破損してしまったり、損傷の程度が激しいため、修理をして元に復することができない状態を言います。(以下、下記の経済手的全損と区別するため、このような状態を「通常の全損」といいます。)
  また、損傷の程度がそれほど激しいものではなく、修理することは可能でも、修理費用が車両の価格を上回る状態を「経済的全損」と呼んで、通常の全損と区別しています。

 

2 経済的全損との用語は、事故の相手方には被害車両の修理をする義務あるいは修理費用相当額を支払う義務はなく、車両の価格に相当する賠償金を支払えば済むという点で、通常の全損と同じであること、しかし修理をしないという理由が、物理的・技術的な理由ではなく、修理費が車両の価格を上回るという経済的な理由であることから、通常の全損と区別するために名付けられた用語です。
  修理費用が車両の価格を上回る場合に、賠償の範囲が車両の価格にとどめられる理由ですが、これは、過度の賠償金の支払や加害者の負担を防止したり、いわゆる「焼け太り」を防ぐためです。
  例えば、修理費用が200万円、車両の価格が100万円である場合、被害者としては、100万円の金額があれば、同じ価格の車両を購入して、事故前に車両を使用していたのと同じ状態に復することができるにもかかわらず、200万円の修理費を負担すべきとしたのでは、相手方に必要以上の負担を強いることになります。
  また、修理費用について、法的には、実際に修理しなくても費用相当額を請求できるとされていることから、相手方から200万円を取得し、そのうちの100万円で元の車両と同じ車両を購入したのであれば、残りの100万円は、文字どおり利得となり、焼け太りとなってしまいます。
  また、日本の裁判の傾向として、「焼け太り」の状態を防ぐことについて、重点が置かれています。
  このため、事故により車両が損傷した場合、明らかな全損(「一目全損」の状態)の状態でない限り、必ず、修理費用と車両の価格の双方を確認し、比較することとされています。

 

3 上記の取り扱いの結果、被害者としては、従前の車両を修理して乗り続けたいと考えても、経済的全損の場合には、賠償額と修理費用との差額を自ら負担するか、修理を諦めるかのいずれの選択を迫られることになります。
  そして、このような状態に対する不満が、話し合いによる解決を難しくする場合も見受けられます。
  そこで、昨今の自動車保険では、「超過特約」として、修理費が車両価格を上回る場合でも、加害者の保険より賠償金(保険金)を支払うことができる特約がもうけられるようになっています。
  また、被害者が車両保険に加入しているのであれば、この保険により、車両の価格を上回る部分の修理費用を補填することも可能です。

 

4 これまで多数の交通事故に接してきた経験からすると、通常の全損に該当する場合はあまりなく、経済的全損となるもののほうが圧倒的に多数であるのが実情です。
  このため、保険料の負担という問題はあるものの、上記の超過特約や車両保険に加入することにより、経済的全損となった場合のトラブルを避けることにつき、検討していただくのが望ましいと思います。

 

5  交通事故でお困りの際は、弁護士法人心の弁護士にご相談ください。

 

   
 

任意保険の必要性について

カテゴリ: その他

1 はじめに
  法律上、加入が義務づけられている自動車賠償責任保険(以下「自賠責保険」といいます。)のほかに、任意保険に入るべきことにつき、自動車免許をお持ちの方は、教習所で教習を受ける際、講義を受けたり、映画を見たりしたことがあるのではないかと思います。
  任意保険の必要性について、弁護士としての業務を行う中で経験したことなども踏まえ、お話します。

 

2 事故に遭った場合の賠償額について
 ⑴ 保険会社による宣伝では、1億円を超える損害賠償が裁判で認められたなど、賠償額が高額になった事例を引き合いに、任意保険加入の必要性を伝える場合が見られます。
  しかし、実務では、1億円を超える賠償額となる事案はまれであり、実務に携わる者としては、少々現実離れしているように思われます。


 ⑵ むしろ、着目していただきたいのは、自賠責保険における保険額が低いため、必要な賠償額を保険でまかなうことができないことが多い、いう点です。
   傷害(けが)のみの場合、自賠責保険の上限額は120万円です。
   治療費のみであれば、120万円を超えることは多くありません。
   しかしながら、上記120万円には、医療費のほかに、通院交通費、休業損害及び傷害慰謝料(治療期間に応じて発生する慰謝料)などが含まれます。
   これらを合わせると、通院のみのけがであっても、120万円の上限を超えてしまう場合がそれなりにあります。
   また、死亡(上限3000万円)や後遺障害(介護を要しない後遺障害の場合、後遺障害の程度に応じ、75万円から3000万円)の場合、慰謝料のみであれば足りるかも知れませんが、多くの場合、死亡などを原因として得ることができなかった収入についての損害(逸失利益)について賠償が求められることが多く、慰謝料と逸失利益を合わせると、上限額を超えてしまうことが通常です。
   自賠責保険のみでは、賠償に必要な費用をまかなうことはできないのが実情です。

 

3 示談交渉をご自身でしなければならないこと
 任意保険に加入している場合には、ご自身が相手方に賠償する義務が生じた場合、保険会社がご自身の代わりに示談交渉をしてくれるのが一般的です。
 交通事故における示談交渉は、低額な事案であっても専門的な知識を要するものがあり、弁護士などの専門家以外の方がご自身で示談交渉をするのは、荷が重いと思われます。
 しかし、自賠責保険のみの場合は、自賠責保険には示談交渉のサービスはないため、ご自身で交渉するか、ご自身の費用負担により弁護士などに依頼するなどしなければなりません。

 

4 保険からの支払が後払いであること
 ⑴ 任意保険の場合は、被害者に対し、事項発生後直ちに医療費を支払ってもらえるため、加害者のみならず、被害者も、医療費の負担なしに受診することができます。
   また、休業損害についても、休業損害証明書の提出がされれば、事前(治療終了前)に支払われることが多いです。
   事前に費用を支払ってもらえることで、被害者に安心感を与えることができ、その後の示談交渉をスムーズに進める効果もあります。

 

 ⑵ ところが、自賠責保険の場合は、被害者にせよ、加害者にせよ、いったんは自ら費用を支払い、その領収書を自賠責保険に提出した後でないと、医療費などについての保険金支払を受けることができません。
   一時的にせよ、医療機関などに支払うべき費用を用意しなければならず、任意保険と違って費用を用意するための負担が生じることになります。

 

5 終わりに
  任意保険には、本体である賠償責任保険(相手に対する賠償金支払のための保険)のほかに、弁護士費用特約をはじめ、様々な特約が付されています。
  このうち、一部の特約(加入しておいた方がよい特約)について、前回のブログにて紹介しています。
  こちらも併せてご覧いただければと思います。
 

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