裁判の限界について
1 はじめに
相手方が賠償に応じないため、裁判所に訴訟を提起し、勝訴の判決が出たにもかかわらず、相手方からの支払を受けることができない場合があります。
2 判決の効力
判決は、相手方に支払義務があることの確認にすぎず、判決を得ただけでは相手方から金銭を取り立てることはできません。
判決を得た後に、これを踏まえて相手方が任意に支払ってくれればよいのですが、支払ってくれない場合には、相手方の給与を差し押さえるなどの、強制執行と呼ばれる手続きを別途行う必要があります。
3 相手方に差し押さえるべき財産が無い場合
相手方に差し押さえるべき財産がなかったり、差し押さえるべき財産を見つけることができなければ、強制執行をすることができなかったり、強制執行に着手したとしても何も得ることができないことになります。(後者の例として、預貯金の差押えを行ったが、口座の残高が0円であった場合など)
4 自動車事故の場合
自動車事故の場合は、自動車賠償責任保険への加入が法律で義務づけられており、多くのドライバーは、これに加えて任意保険にも加入していることが一般的です。
判決を得ることにより、保険契約に定められた保険金の範囲で、保険会社から賠償金が支払われます。(保険会社が支払をしないと、保険契約に反してしてしまうことになるため)
相手方が自賠責保険にも任意保険にも加入していない場合でも、政府が加害者の代わりに、自賠責保険が支払うべき分を支払ってくれる制度(政府保障事業)があります。
しかし、物損(車両その他の物品の破損による損害)については、保険制度としては任意保険しかないため、相手方が任意保険に加入しておらず、資力を欠く場合には、「判決を得ても支払ってもらうことができない」状態になる可能性が高くなります。
5 人身傷害保険・車両保険による備え
自動車事故に遭ったが、相手方が無資力だったという場合に備えるためには、人身傷害保険(けが・死亡に対する保険)と車両保険(物損に対する保険)に加入することになります。
これらの保険に加入しておけば、治療費や修理費を保険会社が支払ってくれるため、相手方が無資力であっても必要な費用をまかなうことができます。
車両保険は、人身傷害保険や弁護士費用特約に比べ保険料が割高なため、加入率が低くなっていますが、判決を得るだけでは無資力の問題は解決しないので、いざというときの備えのために、加入されることをお勧めします。
6 弁護士費用特約について
弁護士費用特約は、弁護士に依頼する際の費用について補償するためのものです。
弁護士に依頼し、裁判で勝訴したとしても、相手方が無資力であれば何も回収することはできません。
相手方の無資力に対する備えとしては、人身傷害保険・車両保険への加入が必要ということになります。