搭乗者限定特約について
1 はじめに
最近、依頼者の方(以下「依頼者」といいます。)が、搭乗者限定特約のある任意保険に加入していたため、思わぬ不利益を被ったという事例がございました。
この事例についてお伝えします。
2 事故状況
依頼者は、運転代行業者が運転する自分の車両(自車)に搭乗中、併走して走っていた相手車と衝突するとの事故に遭いました。
事故の状況に照らし、自車を運転していた運転代行業者と、相手車の運転者の双方に過失があると思われる事案でした。
このような場合、運転代行業者と相手車運転者の双方が依頼者に対し手連帯して賠償責任を負う一方、依頼者は、運転代行業者と相手車運転者のいずれに対しても賠償請求が可能なため(片方のみに全損害を請求することもできる。)、依頼者に不利益は生じないと思われました。
3 一括対応の拒否
事故後、事故の相手方が、治療費を支払ってくれることを「一括対応」といいます。
この支払は、判決や示談などのように確定した義務に基づく支払ではなく、「相手方の任意による前払」となるため、被害者が一括対応をするよう要望することはできても、強制することはできません。
本件について、運転代行業者と相手車運転者の双方に責任があるので、いずれかから一括対応してもらえるものと考えていました。
ところが、運転代行業者、相手方それぞれが「相手のほうに、より大きな過失があるので、自分は一括対応をしない。」として、いずれからも、治療費の支払を受けることができなくなってしまいました。
4 人身傷害保険と搭乗者限定特約
このような場合、被害者が加入する人身傷害保険(事故の相手方ではなく、自分が契約する保険会社が治療費等を支払う保険契約)から、治療費の支払を受けることができるのが一般的です。
ところが、本件の保険契約では、搭乗者限定特約の関係で「依頼者またはその妻が自車を運転していた場合」のみ、人身傷害保険からの支払を受けることができることとなっていました。
このため、依頼者ではなく運転代行業者が自車を運転していた本件では、人身傷害保険から治療費の支払を受けることができませんでした。
依頼者は、健康保険で受診することになってしまいました。
5 おわりに
保険契約の内容次第で、思わぬトラブルにあってしまうことがあります。
搭乗者限定特約のように、補償の範囲を狭くする特約については、注意が必要です。
保険契約についてご不明なことがあれば、弁護士または契約している保険会社担当・代理店などにご相談ください。