交差点事故と過失割合
1 交差点に対する道路交通法の規定
交差点は、複数の車両や人が行き交う場所であるが故に、事故が起こりやすい場所となっています。
このため、道路交通法36条4項では「車両等は、交差点に入ろうとし、及び交差点内を通行するときは、当該交差点の状況に応じ、交差道路を通行する車両等、反対方向から進行してきて右折する車両等及び当該交差点又はその直近で道路を横断する歩行者に特に注意し、かつ、できる限り安全な速度と方法で進行しなければならない。」と定めています。
簡単にまとめると、交差点を走行する車両は、他の車両や歩行者の動きに注意し、できる限り、安全に配慮して走行しなければならない、ということであり、互いに、事故を避けるための義務が課されていることになります。
2 過失割合について
⑴ 事故に遭われた経験がある方はご存じかもしれませんが、交差点での車両どうしの事故の場合、過失割合が問題となることが一般的です。
過失割合は、事故に対する双方の責任の割合です。
例えば、相手方の過失割合が100、自分の過失割合が0であれば、自分は相手方に事故による損害額全部を請求できる一方、相手方は1円も請求できません。
過失割合が50:50であれば、互いに、相手方の損害の半分を賠償することになります。
過失割合が問題となるのは、先ほどにお示しした道路交通法の条文のとおり、互いに事故を避けるための義務が課されていることによるものです。
このため、片方の当事者が一方的に全部の責任を負うのは(過失割合が10:0となるのは)、赤信号を無視して交差点に進入した場合など、一部の事例に限られています。
⑵ 事故の当事者間の公平を期するため、事故の類型ごとに過失割合が定められ、これに従って、当事者間の交渉や裁判が行われています。
このため、不幸にして遭遇した事故が、上記の類型に当てはまるものであれば、これに基づく過失割合を前提として示談や裁判がされるのが通例です。
⑶ 交差点の事故において、他方の過失割合が0とされることは、あまりありません。
これは、上記の1でお伝えしたとおり、交差点を走行する車両双方に事故を避けるための義務が課せられていることによるものです。
3 過失割合が0とされる場合
⑴ 過失と結果回避義務違反
単に過失というと、不注意であること、と思われるかも知れませんが、法律上の過失の本質は「結果回避義務違反」とされ、車両どうしの交通事故の場合であれば、事故を避けるために運転者としてすべき注意義務(安全確認義務、速度遵守義務など)を怠り、これが原因となって事故が発生したと認められる場合に、過失ありとされます。
逆に言えば、運転者としての注意義務を尽くしていたにもかかわらず、事故を避けることができなかったのであれば、過失ありとはされません。
例えば、交差点通過時、相手車が停止していることを確認して通過する途中、自車と相手車両が至近距離に接近したところで、急に相手車が発進し衝突した場合、自車としては、運転上の注意義務を尽くしており、かつ、至近距離で突然発進した相手車との衝突を避けることは不可能なので、自車は過失なし(結果回避義務違反なし)とされます。
⑵ 予見義務と信頼の原則
結果回避義務を尽くすためには、事故発生の危険を予知する必要があります。
例えば、交差点通過時においては、他の車両がいれば、その車両が不意に交差点に進入してくることを予想して、他の車両の動向に注意したり、速度を落とす(徐行する)といった結果回避義務が求められることになります。
上記のように、結果回避義務を尽くす前提としての予見をする義務を、予見義務といいます。
しかし、これを強調しすぎると、例えば、相手側の信号が赤であったとしても、相手が不意に発進してくることを予見しなければならない、といった過剰な予見義務と、これを前提とした結果回避義務が課されることとなり、かえって、円滑な交通が阻害されることになってしまいます。
上記の例であれば、交差点に達するたびに、徐行・減速をしなければならないことになります。
そこで、「相手方が交通ルールに沿った運転をすることを前提として行動すれば足りる」とのルールが判例によって認められており、これを「信頼の原則」といいます。
信頼の原則があることで、過剰に予見義務が課されることを防ぐことができます。
ただし、赤信号の交差点に猛スピードで進む車両に出くわした場合など、相手方が交通ルールに沿った運転をすることが期待できない場合には、前提となる「交通ルールに沿った相手方の運転」がすでに崩れていることから、信頼の原則は適用されず、他車は青信号であっても交差点に進入しないことにより相手車との衝突を避けるなどの、結果回避義務が求められることになります。
4 過失割合の変更
過失割合は、双方の事故時の速度や、合図の有無(ウインカーの点滅の有無)などにより変わる可能性がありますが、一瞬で発生する事故において、これらの事実を確認することには困難が伴います。
昨今は、ドライブレコーダーの画像を参照し、静止画での再生や低速での再生をすることなどにより、事故の態様や、合図の有無のような事実の有無を確認することができるようになってきましたが、依然として、ドライブレコーダーが備え付けられておらず、画像の確認ができない事故も少なくありません。
この場合は、双方運転者の供述や、事故現場に残された事故の痕跡(スリップ痕、擦過痕など)を手がかりに、事故態様を検討するという、専門的な対応が必要となります。
また、一般的な類型に当てはまらない事故においては、これに類似した判例を探したり、他の類型と比較しながら過失割合を検討するなどします。
5 終わりに
過失割合を検討するに当たっては、事実の確認と、これに対しどのような過失割合を適用するかを判断するに際し、専門的な判断が必要となります。
過失割合について疑問をもたれた場合は、専門家である弁護士に相談されることをお勧めします。