頸椎捻挫と後遺障害
1 はじめに
交通事故によるけがの治療を続けても、回復の見込みがないとされる症状が残った場合、これが後遺障害と呼ばれる状態となります。
その中で、一番数が多いと思われるのが、頸椎捻挫による頚部の痛みですが、損害賠償の対象となる後遺障害と認められるためには、原則として、自動車賠償責任保険において定められた後遺障害の等級(類型)に該当するものと認められる必要があります。
多くの場合、該当するとされた場合の等級は、14級9号の「局部に神経症状を残すもの」です。
2 後遺障害が認定されるための基準
では、どのような症状や状態になれば「局部に神経症状を残すもの」に当たるかですが、明確な基準は不明というのが正直なところです。
これは、上記の「神経症状」が、痛みなどの目に見えない症状であることによります。
例えば、「関節の機能に障害を残すもの」であれば、障害のない同一の関節との可動域を比較し(例:左膝に障害が残ったのであれば、障害のない右膝の関節との可動域を比較する。)、障害のある方の関節の可動域が、障害のない関節の可動域と比べ4分の1以上、可動域が制限されていれば、「関節の機能に障害を残すもの」として後遺障害に該当することにつき、数値で判断することができます。(例:健康な右膝の可動域が100度であるのに対し、障害のある左膝の可動域が75度以下である場合など。)
これに対し、痛みなどの神経症状は、目に見えるものではないため、上記のような客観的な基準を定めることができません。
3 認定される事例の傾向
このように、明確な基準を定めることができないため、私たち弁護士が依頼者より「頚部・腰部の痛みの症状が、自動車賠償責任保険における後遺障害に該当するか。」との質問を受けても、確実なお答えをすることは難しいのが正直なところです。
ただ、これまでの多数の案件に関わってきた経験に基づくものとして、後遺障害に認定されるための要素として、以下のものを挙げることができるのではないかと考えています。
⑴ 単なる痛みだけではなく、腱反射の異常など、神
経の異常を窺わせる症状が認められること。
⑵ 治療を続けても症状が改善しないことの確認として、半年以上の治療を経ても症状が改善しないこと。
治療期間が半年よりも短い場合、「改善の見込みがないとはいえない」との理由により、後遺障害等級に該当しないとされることが多くなります。
⑶ 車両同士の事故である場合、車両の損傷が大きいこと(修理費用が高額であること)。
車両の損傷が大きいほうが、車両ひいては身体に係る衝撃が大きく、身体の損傷もこれに比例するとの考えに基づくものと思われます。
⑷ 若年者ではないこと。
若年者の場合、回復の見込みが大きいとされているようです。
ただし、後遺障害に該当するとされるかの判断は、あくまで上記の要件を総合的に考慮しての判断であり、単純に上記のいずれかの要件を充たせば認定される、というわけではないことについてもご留意ください。
4 終わりに
頚部や腰部の痛みを理由とする後遺障害の認定について、上記のとおり、様々な要素を勘案して検討されることになります。
専門家である弁護士にご相談されることをお勧めします。