車両の評価損について
1 評価損について
(1)車両の評価損とは、事故後に車両の修理を行い、完了し たものの、「事故に遭い修理を行った」ことにより、これがない同種車両と比べ、市場における車両の価値が低下した場合に、この低下分を事故による損害とするものです。
(2)上記の評価損について、どのように算定するのか考えた場合、多くの方は、事故に遭った車両と、事故に遭っていない車両との販売価格の差額が評価損であると考えるのではないでしょうか。
しかしながら、次にご説明するとおり、これまでの裁判所の算定の方法は、上記とは異なっています。
2 裁判所における評価損の算定方法
(1)裁判所における評価損の算定方法は、そのほとんどが「修理費の1割から3割程度の金額(ただし、事例(新車購入後、まもなく事故に遭ったような場合など)によっては、5割など、上記を超える割合としたものがあります。)を、評価損とする。」というものです。
修理費を基礎としているのは、事故による車両の破損状況が大きいほど、修理費が高額となり、これに伴い、評価損も高額となる。」という考え方によるものです。
上記「1割から3割」について、どのように決めるかについては、初度登録からどの程度年数が経過しているか、高価な車両(外国車、国産の高級車、大型車など)か廉価な車両(軽自動車など)か、走行距離などを考慮する、とされています。
初度登録からの年数が少なく(逆に、3ないし5年を超えると、認められにくい傾向があります。)、高価な車両のほうが、上記の割合は高くなる傾向にあります。
また、多くの裁判例は、事故に遭ったことのみをもって直ちに評価損が発生するとはしておらず、車両の骨格部分に損傷が生じた場合に、評価損が発生するとしています。
骨格部分以外の、例えばバンパなどの部品が損傷したのみであれば、当該部品を交換することにより、事故前の状態に戻すことができるのに対し、骨格部分に損傷が生じた場合には、見た目は修復できても、強度の低下など目に見えない悪影響が残るとされていることによるものです。
(2)評価損の算定方法としては、上記の他に、日本自動車査定協会という一般財団法人があり、この団体が発行する自動車価格の査定書を提出する方法もありますが、多くの裁判例は「金額の根拠が不明である」として、査定書に従った認定はしておらず、上記の「修理費に一定割合を乗じた金額」を評価損としています。
3 裁判所における査定方法の問題点
「事故による車両の破損状況が大きいほど、修理費が高額となる」ことは事実です。
しかしながら、事件処理の際に目にする査定の資料や、日本自動車査定協会のホームページに掲載された査定の方法には、「査定に当たり修理費を確認する」との項目は見当たりません。
査定のための書類には、車両の状態や、過去の損傷箇所(修理歴)の確認についての記載はあるものの、「過去の修理費」についての項目はありません。
「修理費を基礎として評価損を算定する」との方法は、裁判所独自の方法ではないかと思われます。
また、修理費に乗じる割合について、なぜその割合となるのか、基準表のようなものがあるわけではありません。
このため、評価損の額が問題となった場合、過去の裁判例を参照し、似たような事案(車種、初度登録から事故までの年数など)と比較しながら、修理費に乗じる割合を判断せざるを得ません。
上記判断の際、時間や労力を要するばかりではなく、割合についての明確な基準がないことにより、「裁判所方式による評価損の算定」が、非常に不明確あるいは不安定なものであると感じられます。
不動産鑑定のように、全国共通の基準に基づく算定ができればよいのに、と思う次第です。
4 終わりに
評価損の判断に当たっては、過去の多数の裁判例を検索・検討する必要がありますがこのような作業は、一般の方には難しいと思います。
評価損が問題となったときは、弁護士に相談されることをお勧めします。