むちうち症での受診の注意点
むちうち症(頸椎捻挫、腰椎捻挫)での受診の注意点
1 はじめに
交通事故の後,むち打ち症(頸椎捻挫)にて,医療機関あるいは整骨院に通う際,正しい受診の方法を知らなかったがために,あるべき賠償を受けることができない事例を度々見かけます。
そのような事態にならないために,以下の事項に留意していただけたらと思います。
2 整形外科医による診断の必要性
(1) 事故により負傷したこと,あるいは治療の必要性があることなどについては,診断書が基本的な証拠となるため,まずは診断書の取得が必要になります。
また,頸椎捻挫に対応した診療科目は,整形外科となります。
ところが,これまで対応した事案の中には,整形外科医とは別の診療科目を担当する医師の診察のみを受けたにとどまるもの,あるいは整骨院のみに通うという事案がありました。
前者の場合は,専門外ゆえ,診断書の記載内容に対する信頼性が低下すると共に,必要な診療を受けることができない可能性が高くなります。
後者の場合,診断書を作成できるのは医師のみであるため,整骨院のみに通ったのでは,基本的な証拠である診断書がないまま,加害者との交渉に臨むことになってしまいます。
(2) なお,整骨院における従事者である柔道整復師が診断書を発行できるかにつき,議論がないわけではありません。
しかしながら,医師法には医師の診断書交付義務を定めた条文(19条2項)があるのに対し,柔道整復師法にはそのような規定はないこと,刑法160条における虚偽診断書等作成罪は医師のみを犯行の主体としていることから,診断書を発行できるのは医師のみであるとするのが通説です。
また,柔道整復師が作成する施術証明書の中には,被害者の身体の状況に関する記載がされていることがありますが,診断書のように制度上の裏付けがあるものではないため,診断書に比べてその内容の精度につき,低く見られざるを得ないのが現状です。
3 整形外科と整骨院との併用について
(1) 被害者によっては,整形外科と整骨院の両方に通う方がいらっしゃいます。
この場合,整形外科のみならず,整骨院にも通う必要があるかにつき,問題が生じることがあります。
(2)上記に対する裁判所の判断の傾向は,整骨院での施術が症状の改善に寄与した場合に整骨院での費用の全部あるいは一部を認めるというものですが,「症状(痛み)の改善」は目に見えるものではなく,レントゲンの画像などのように客観的に捉えることができないことから,裁判所自ら,整骨院での施術の必要性につき判断することは,実際上、困難です。
そこで,裁判例の大勢としては,整骨院での施術につき医師の指示があった場合には,施術の必要性を認める傾向にあります。
(3)このため,整形外科と整骨院の両方に通う場合は,医師と協議し,医師の指示を得た上で整骨院に通うようにしたほうが安全と考えられます。
ただし,この場合でも,医師による診療の機会が限られていると(例:月1回しか医師による診察の機会がないなど),必要な治療期間や症状固定につき医師が判断する際,正確な判断ができないことがあるので,注意が必要です。
4 事故後の受診において,まずは症状の改善や治癒を目指すことが大事なことは言うまでもありません。
しかしながら,治療の経過や受診の仕方により,損害賠償の対象となるべき治療費や,慰謝料が異なってくる場合があります。
昨今は,自動車保険(任意保険)の弁護士費用特約により,被害者による費用負担なくして,専門家である弁護士のアドバイス等を得ることが可能です。
弁護士費用特約がある場合には,これを活用して,弁護士によるサポートを受けることが有益です。