裁判に現れる事実について
1 裁判についての報道は毎日のようにされています。
多くの方は,その内容が,そのまま事実であると考えてしまうと思います。
2 しかしながら,弁護士のみならず裁判官として実際に裁判に関わった経験からすれば,全ての事実が裁判(判決)に盛り込まれるわけではありません。
膨大な数の事実の中から,一定の結論(判決)をするのに必要な事実だけが裁判所(裁判官)により抽出され,これが判決という形で結実します。
「判決をする」こととは,判決をするのに必要な事実を抽出し,組み立てることに他なりません。
また,判決をするのに必要な事実の収集は,原告あるいは被告とされた本人や,検察官・弁護士といった,裁判所以外の者が行うこととされています。
複数の人が事実の収集や組み立てに関わることで,多数の事実が集まり,裁判の結論について様々な方向から検討することができる一方で,事実の収集に漏れがあったり,必要な事実かどうかの判断を誤るなどした結果,重要な事実がありながらこれが埋もれてしまったり,あるべき結論と異なる結論となる可能性があることも,また実際に生じていることなのです。
事実を明らかにする,ということは,大変な労力を要する作業である一方で,判決は,決して,全部の事実を明らかにしたものではないのです。
3 昨今,ツイッターへの投稿を理由に,裁判官が戒告処分となったとの報道がありました。
上記のとおり,裁判に現れた事実が全ての事実ではない以上,一部の事実のみを取り上げ,強調することは望ましいことではないと考えています。
一見,不合理に見える事実でも,その背景に,表に現れない,何らかの事実(事情)があるかもしれないためです。