民事執行法の改正と債権回収について
1 はじめに
強制執行をする場合、これまでは、債権者が何らかの方法により債務者の財産を探して特定し、これに対する強制執行を裁判所に申し立てる必要がありました。
これに対し、民事執行法が改正されたことにおり、債務者の財産を調査する(探す)ための制度が設けられました。(以下「財産調査制度」といいます。)
しかし、実際には、簡単に債務者の財産を見つけることができる制度というわけではないようです。
2 財産調査制度開始のための要件
強制執行を実施したが完全な弁済を得ることができなかったとき、または債権者が把握している債務者の財産に強制執行をしても完全な弁済を得られないことを疎明したとき(疎明とは、証明のような確かさまでは必要ないが、一応、確からしいと思われる状態であることを示したとき。)のいずれかの要件を備える必要があります。
後者については、債務者以外の者が一般的に調査可能な範囲での調査をしたが、債権回収のための財産が見当たらないことを示す必要があります。
このため、最低限、債務者の居住地の不動産が債務者の所有でないことについて、公開情報である登記を取得して確認するなどの作業をすることが求められます。
また、財産開示手続を実施するためには、判決や公正証書など、強制執行をするための特定の書類が必要となります。
財産開示手続は、強制執行を実施するための準備としての制度であるため、上記の書類がなく、強制執行をすることができない者については、財産開示の申立てをすることができないためです。
3 財産開示手続を先行すべきことについて
財産調査制度により調査を行うに際し、不動産と勤務先の情報を得るためには、過去3年以内に財産開示が実施されていることが要件となっています。
このため、実施されていない場合は、調査の前に、財産開示の手続実施を裁判所に求める必要があります。
これに対し、預貯金の調査については、財産開示手続が実施されたことは不要ですが、各金融機関ごとに個別に照会する必要があります。
現在では、ネット銀行なども複数あり、債務者が居住地の近くの金融機関に預金しているとは限らないため、債務者の預貯金がある金融機関を見つけることは、容易ではありません。
また、見つけることができたとしても、預金額が少ないため強制執行に適さないということもあり得ます。
4 財産開示手続の実施
裁判所が財産開示手続の実施を決定すると、債務者は所持している財産の一覧を作成して提出し、裁判所が指定した期日(裁判所内で手続が行われる日)に出頭する義務が生じます。
しかし、財産を開示するかどうか、どの範囲で開示するかについては、債務者に委ねられています。
事実と異なる開示がされた場合、刑罰に処せられることとなりましたが、依然として、正しく開示されるかどうかは、債務者次第という状況に変わりはありません。
5 債務者が行方不明などの場合
財産開示手続を含め、裁判所の手続は、送達といいますが、書類を相手方に送付する手続をする必要があります。
債務者が受け取らなかったり、行方不明で送達先が不明な場合でも、送達をしたのと同様に扱う制度が設けられています。
そして、上記の場合、債務者がいない状態で財産開示の期日が開かれるため、形式上は、不動産や勤務先に関しての財産調査制度を利用するための財産開示は実施されたものとして、次の財産調査制度の手続に進むことができます。
しかし、財産開示制度が、債権者により財産を明らかにしてもらい、これに基づいて強制執行をするための制度であることからすれば、債務者が出頭しないことにより、財産開示制度の効用が損なわれることは否めません。
6 財産調査制度の効用
財産調査制度は、あくまで財産に関する情報を得るための制度であり、強制執行をして債権回収をすることを保証するものではありません。
そして、債権回収ができない理由の多くが、債務者による財産隠しではなく、債務者自身に財産がないことであることからすれば、調査制度が設けられたことで、より容易に強制執行をすることができるよになった、とはいえないのが実情です。
また、個人情報の保護のためであるとはいえ、財産開示手続を先行させるとしたことにより、強制執行までのハードルが高くなっています。
7 終わりに
財産調査制度及び財産開示手続については、いろいろ難しい問題があるため、専門家である弁護士にご相談ください。