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搭乗者限定特約について
1 はじめに
最近、依頼者の方(以下「依頼者」といいます。)が、搭乗者限定特約のある任意保険に加入していたため、思わぬ不利益を被ったという事例がございました。
この事例についてお伝えします。
2 事故状況
依頼者は、運転代行業者が運転する自分の車両(自車)に搭乗中、併走して走っていた相手車と衝突するとの事故に遭いました。
事故の状況に照らし、自車を運転していた運転代行業者と、相手車の運転者の双方に過失があると思われる事案でした。
このような場合、運転代行業者と相手車運転者の双方が依頼者に対し手連帯して賠償責任を負う一方、依頼者は、運転代行業者と相手車運転者のいずれに対しても賠償請求が可能なため(片方のみに全損害を請求することもできる。)、依頼者に不利益は生じないと思われました。
3 一括対応の拒否
事故後、事故の相手方が、治療費を支払ってくれることを「一括対応」といいます。
この支払は、判決や示談などのように確定した義務に基づく支払ではなく、「相手方の任意による前払」となるため、被害者が一括対応をするよう要望することはできても、強制することはできません。
本件について、運転代行業者と相手車運転者の双方に責任があるので、いずれかから一括対応してもらえるものと考えていました。
ところが、運転代行業者、相手方それぞれが「相手のほうに、より大きな過失があるので、自分は一括対応をしない。」として、いずれからも、治療費の支払を受けることができなくなってしまいました。
4 人身傷害保険と搭乗者限定特約
このような場合、被害者が加入する人身傷害保険(事故の相手方ではなく、自分が契約する保険会社が治療費等を支払う保険契約)から、治療費の支払を受けることができるのが一般的です。
ところが、本件の保険契約では、搭乗者限定特約の関係で「依頼者またはその妻が自車を運転していた場合」のみ、人身傷害保険からの支払を受けることができることとなっていました。
このため、依頼者ではなく運転代行業者が自車を運転していた本件では、人身傷害保険から治療費の支払を受けることができませんでした。
依頼者は、健康保険で受診することになってしまいました。
5 おわりに
保険契約の内容次第で、思わぬトラブルにあってしまうことがあります。
搭乗者限定特約のように、補償の範囲を狭くする特約については、注意が必要です。
保険契約についてご不明なことがあれば、弁護士または契約している保険会社担当・代理店などにご相談ください。
搭乗者限定特約について
1 はじめに
最近、依頼者の方(以下「依頼者」といいます。)が、搭乗者限定特約のある任意保険に加入していたため、思わぬ不利益を被ったという事例がございました。
この事例についてお伝えします。
2 事故状況
依頼者は、運転代行業者が運転する自分の車両(自車)に搭乗中、併走して走っていた相手車と衝突するとの事故に遭いました。
事故の状況に照らし、自車を運転していた運転代行業者と、相手車の運転者の双方に過失があると思われる事案でした。
このような場合、運転代行業者と相手車運転者の双方が依頼者に対し手連帯して賠償責任を負う一方、依頼者は、運転代行業者と相手車運転者のいずれに対しても賠償請求が可能なため(片方のみに全損害を請求することもできる。)、依頼者に不利益は生じないと思われました。
3 一括対応の拒否
事故後、事故の相手方が、治療費を支払ってくれることを「一括対応」といいます。
この支払は、判決や示談などのように確定した義務に基づく支払ではなく、「相手方の任意による前払」となるため、被害者が一括対応をするよう要望することはできても、強制することはできません。
本件について、運転代行業者と相手車運転者の双方に責任があるので、いずれかから一括対応してもらえるものと考えていました。
ところが、運転代行業者、相手方それぞれが「相手のほうに、より大きな過失があるので、自分は一括対応をしない。」として、いずれからも、治療費の支払を受けることができなくなってしまいました。
4 人身傷害保険と搭乗者限定特約
このような場合、被害者が加入する人身傷害保険(事故の相手方ではなく、自分が契約する保険会社が治療費等を支払う保険契約)から、治療費の支払を受けることができるのが一般的です。
ところが、本件の保険契約では、搭乗者限定特約の関係で「依頼者またはその妻が自車を運転していた場合」のみ、人身傷害保険からの支払を受けることができることとなっていました。
このため、依頼者ではなく運転代行業者が自車を運転していた本件では、人身傷害保険から治療費の支払を受けることができませんでした。
依頼者は、健康保険で受診することになってしまいました。
5 おわりに
保険契約の内容次第で、思わぬトラブルにあってしまうことがあります。
搭乗者限定特約のように、補償の範囲を狭くする特約については、注意が必要です。
保険契約についてご不明なことがあれば、弁護士または契約している保険会社担当・代理店などにご相談ください。
車両保険について
1 はじめに
車両保険は、他の特約(弁護士費用特約、人身傷害特約(人身傷害保険))などと比べ、保険料が高めであるためか、加入している方が少ない印象を受けます。
しかし、弁護士として事件に対応していると、「車両保険に入っておけばよかったのに」と思われる場面に、しばしば遭遇します。
2 事故の相手方が任意保険に加入していない場合
物損(車両の損傷による損害)の金額は、人損(ケガ、死亡による損害)に比べ大きくはありませんが、それでも、数十万円以上になることが多くあります。
このような金額を、一般の方がすぐに支払ってくれるかというと、なかなか難しいのではないかと思われます。
もし、車両保険に加入していたのであれば、相手方が支払うべき金額を、被害者自身が契約する保険会社が代わりに支払ってくれるので、「相手方が支払ってくれない、支払うだけの金銭がない」といったリスクを回避することができます。
いわゆる「当て逃げ」の場合で、当て逃げした相手が明らかにならない場合も、相手方に賠償を求めることができず、被害者側の損害となってしまいますが、車両保険に加入していれば、加害者に代わり、御自身の保険会社より物損に対する費用を支払ってもらうことができます。
3 修理費用、経済的全損を巡り争いとなった場合
物損請求の場面で、しばしば問題となるのが、被害車両の価格が、修理費を下回ってしまい、車両価格の範囲でしか賠償を受けられないことです。
このような場合、車両の買替を検討することになりますが、実際のところ、類似の車両が見つからないなどの理由で、結局、買替に要した費用が、相手方からの賠償額を上回り、被害者が損害を被る事例が、しばしば発生しています。
車両保険に加入していた場合、契約内容にもよりますが、車両保険から支払われる保険金のほうが、相手方からの賠償額を上回る場合があります。
また、新車を購入できる特約がついている場合もあります。
4 自身の過失割合が大きい場合
相手方から支払われる賠償金は、過失相殺をした後の金額ですので、被害者側に過失がある場合、その分、賠償金が減少することになります。
これに対し、車両保険からの支払金額は、重過失の場合は別として、過失割合による減額はありません。
車両保険から支払を受けた場合、保険料が値上がりします。
しかし、値上がりが5万円、過失相殺による減額が10万円などのように、値上がり額が減額分を下回る場合は、車両保険を使ったほうが有利です。(5万円を支払って、10万円をもらうのと同じことになるため)
このため、相手方から支払(賠償)を受けるよりも、車両保険から支払ってもらった方が有利になる場合があります。
5 対物超過特約が役に立たない場合
経済的全損によるトラブルを回避するため、保険によっては、対物超過特約といって、経済的全損の場合でも、車両価格を超える修理費を支出してもらえる特約が付いていることがあります。
しかし、この特約を適用するためには、相手方本人の同意が必要です。
特約を適用すると、相手方が加入している保険の保険料が値上がりしますが、これを嫌がる相手方本人が、特約の適用を拒んだ場合、対物超過特約がついていても、役に立たないことになります。
6 無過失特約について
車両保険は、もともと保険料が高い上に、これを使用した場合には、さらに保険料が値上がりしてしまうという問題がありました。
しかし、保険契約によっては「無過失特約」といって、被害者側が無過失の事故(停止中に、相手方から追突された事故など)であれば、保険料が値上がりしない特約がついている場合があります。
この特約があれば、車両保険を使用しても、保険料の値上がりを防ぐことができます。
7 おわりに
今回は、車両保険についてお伝えしました。
保険の適用のほかに、過失割合など、物損事故についてはいろいろな問題が起こることがありますので、専門家である弁護士にご相談ください。
優先道路について
1 はじめに
優先道路とは、交差点において、その道路を走行する車両が、他の道路を走行する車両に優先して走行することが認められている道路をいいます。
標識により優先道路である旨が表示されている場合と、交差点内に継続してセンターラインが引かれていることにより優先道路であることが表示されて場合の2つがありますが、多くは、設置費用の節約のため、標識ではなくセンターラインにて、優先道路であることが表示されています。
2 優先道路走行車の劣後車に対する優越
優先道路走行車は、優先道路ではない道路からの交差点への進入車(以下「劣後車」といいます。)に対し優先して進行することができます。
逆に、劣後車は、優先道路走行車の進行を妨げてはならないとされています。
また、見通しの悪い交差点の通行は、いずれの車両も徐行しなければならないのが原則ですが、優先道路走行車は、見通しの悪い交差点であっても、徐行する義務が免除されています。
3 過失割合について
上記のとおり、優先道路走行車のほうが、劣後車よりも優越的な立場にありますが、これら車両による事故が起きた場合、基本となる過失割合は、優先道路走行車が1、劣後車が9とされています。
優先道路走行車の過失割合が0とならないのは、交差点では、双方の車両がなるべく安全な方法と速度で進行すべきこと、言い換えれば、互いに事故を避けるべき義務(事故回避義務)があるとされていることによるものです。
優先道路走行車は、徐行義務が免除されていますが、事故回避義務については免除されていないためです。
4 優先道路走行車両の過失割合1を過失割合0とできるか
上記1:9の過失割合は、事故の類型に応じた過失割合の一つであり、事故関係者の公平を保つため、この割合を変えるためには明確な証拠が必要とされています。
過失割合が0ということは、優先道路走行車の運転者が、どんなに注意しても事故を避けることができなかったといえる場合か、相手方が脇見や飲酒運転などの違法な運転をしていた場合にのみ認められることになります。
例えば、優先道路走行車が交差点を通過中、それまで停止線手前で停止していた劣後車が急に発進して衝突した場合【優先道路走行車の運転手がどんなに早く気付いてブレーキをかけても止まることができない(衝突を避けることができない)場合】などです。
しかし、これを立証するには、劣後車の運転者がそのことを認めているか、ドライブレコーダーか交差点に設置された防犯カメラなどの画像がある場合でないと、難しいと考えられます。
優先道路を走行していて事故に遭った依頼者の方の中には、無過失を主張される方がおりますが、画像が無い状態で、無過失が認められることは、実際のところ、ほとんど無いのが実情です。
5 おわりに
優先道路に限らず、交差点での事故における過失割合の判断は、いろいろ難しい問題がありますので、専門家である弁護士にご相談ください。
経済的全損について
1 はじめに
交通事故により被害に遭われた方からの相談中、多くを占めるのが経済的全損についてのご相談です。
経済的全損の意味と、被害者としてとりうる対策についてお伝えします。
2 経済的全損の意味と、これが認められている理由
経済的全損とは、修理費と、事故時の車両価格を比較した際、修理費が車両価格を上回る状態をいいます。
このような場合、相手方からの賠償額は、修理費ではなく、修理費を下回る車両価格の範囲にとどまることになります。
上記は、最高裁の判例で認められているルールでもあります。
次に、経済的全損とされる理由ですが、高額な修理費を出さずとも、より低い価格での同種車両を購入できるのであれば、その購入により事故前の状態に復することができること、そのように対処することが経済的であることが理由です。
なお、経済的全損に対し、損傷が激しく、一見して修理不能な状態を「一目全損(いちもくぜんそん)」と呼ぶことがあります。
経済的全損は、修理自体は可能な点で、一目全損と異なります。
3 経済的全損とされたことに対する被害者の対応
その1 車両価格を再確認する
かつて、車両価格を調べる場合、レッドブックと呼ばれる、車両価格の一覧を掲載した書籍によることが一般的でした。
しかし、昨今は、グーネットやカーセンサーといった、中古車の販売サイトで、同種・同年代・同走行距離の車両を検索し、その価格(本体価格)を比較することができるようになりました。
そして、中古車サイトの価格は、レッドブックの価格を上回ることが多いです。
このため、保険会社が示す車両価格について、これがレッドブックに基づくものであれば、中古車サイトにて再確認することが望ましいです。
4 その2 対物超過特約の確認
相手方が加入している保険の契約によっては、一定の限度はありますが、経済的全損の場合でも修理費相当額を賠償してもらえる「対物超過特約」が付いている場合があります。
この場合には、経済的全損の場合でも、修理により原状回復をすることができます。
ただし、実際に修理することが条件であり、修理をせずに修理費相当額をお金でもらうこと(金銭賠償を求めること)はできません。
対物超過特約は、被害者に実際よりも多くの賠償金を支払うことが目的ではなく「修理ができないこと」により示談ができなくなってしまうことを防ぐためのものであるためです。
金銭賠償を求める場合は、原則どおり、車両価格の範囲での賠償にとどまります。
5 その3 買替費用を上乗せして請求する
経済的全損における賠償は、修理せずに、同種車両を購入することを前提にしています。
このため、車両本体価格(税込)のほかに、登録手続費用や事故車の廃車費用なども請求することができます。
また、事故車にドライブレコーダーなどのオプションがあり、これを新たな購入車に付け替える場合の費用を認めた判決もあります。
4 その4 車両保険を使用する
被害者自身の車両保険を使用する場合(車両保険から保険金を支払ってもらう場合)、その後の保険料の値上がりにつながることを嫌い、その使用をよしとしない方がいらっしゃいます。
しかし、車両保険の新車特約などを利用することで、相手方からの賠償額を上回る金額を取得することができる場合があります。
相手方からの賠償見込額が10万円、車両保険からの支払額が50万円、保険料の値上がり額が5万円の場合、値上がりの負担を踏まえても、車両保険を使用した方が35万円多く取得できます。(車両保険50万円と相手方からの賠償見込額の差額40万円から、値上がり額5万円を差し引いた額が35万円)
また、無過失特約といって、追突された事故などのように、被害者の過失がない事故において、車両保険を使用しても保険料が値上がりしない特約が付されている場合があり、この場合は、車両保険を使った方が、相手方と交渉して賠償金を取得するよりも、修理費などの必要な費用を速やかに取得することができます。
5 おわりに
経済的全損とされた場合、上記のとおりの対策があります。
どの対策が有効であるかについては、専門家である弁護士にご相談ください。
ドラレコについて
1 はじめに
昨今、事故のご相談をさせていただく際、ドライブレコーダー(以下「ドラレコ」といいます。)の画像を確認する機会が増えてきました。
ドラレコの購入・設置のための費用がかかりますが、事故に備える方法として、ドラレコは、任意保険と同じ様に、必需品であると言っても過言ではないと思います。
2 ドラレコの利点
ドラレコの利点は、なんといっても事故時の状況(画像)がそのまま記録として残ることです。
これにより、例えば「事故当時の信号機が青だったか、赤だったか」といった、記憶だけでははっきりしない事実による争いがなくなり、結論を出しやすくなります。
また、事故が起こるのは一瞬ですが、録画をくり返し検討することで、最初は気付かなかった事実が、後で明らかになることもあります。
3 ドラレコの失敗例
しかし、依頼者・相談者の中には、ドラレコの操作に不慣れなため、次のような失敗をされる方がいらっしゃいます。
ドラレコの捜査方法は、きちんと確認してください。
また、自動車保険の種類によっては、保険会社がドラレコを貸与し、事故時の画像転送や保険会社の連絡までできるものがあります。
ドラレコの操作に不安がある方は、ドラレコ付きの保険を検討する方法もあるかもしれません。
⑴ 録画された後、画像データを取り出さずそのまま放 置してしまった
画像が上書きされ、消えてしまいます。
事故があったとき、データをどのように取り出して保管するべきか、予め確認しておくことが大事です。
⑵ 録音できない状態になっている
ドラレコの機種によっては、録音のオン・オフを選ぶようになっているもの、あるいは録音ができず録画のみとなっているものがありますが、必ず、録音ができる状態にする。録音できる機種を選ぶようにしてください。
事故の状況で争いとなるものの一つに、合図をしたかどうか(ウインカーを点滅させたかどうか)があるのですが、これは、ウインカーの点滅音が聞こえるかどうかで判断されます。
録音できない状態ですと、ウインカー点滅の有無が確認できません。
4 弁護士への相談
ドラレコの画像があれば、弁護士としても、確実な事実を前提にアドバイスすることができます。
ドラレコの画像がある場合は、弁護士に相談する際、その旨をお伝えください。
後遺障害認定のしくみについて
1 はじめに
交通事故により、治療にもかかわらず後遺障害が残った場合、これが所定の後遺障害に該当するかにつき、認定することが必要となります。
この認定のしくみについて、お知らせします。
2 自賠責保険会社と調査事務所との関係
後遺障害の認定を求める場合、自動車保険を取り扱う保険会社に対し、後遺障害認定に必要な書類(後遺障害診断書など)を提出し、後遺障害として認定するよう求めることになります。
しかし、認定をするのは、各保険会社ではなく、保険会社とは別の、各都道府県に設けられた調査事務所となります。
後遺障害が認定されると、保険会社は、認定に応じた保険金を支払う義務が生じます。
なるべく保険金の支払を抑え、収益の悪化を避けたい保険会社が認定に関わったのでは、中立・公正な判断をすることができません。
このため、保険会社とは別の期間である、調査事務所が調査・認定をすることになっています。
3 調査事務所による調査内容
調査内容は、後遺障害診断書に記載された後遺障害の内容により異なります。
最も申請件数が多いと思われる、頸椎捻挫・腰椎捻挫の場合ですと、申請時にレントゲン・MRIなどの画像検査の資料を添付しなかった場合は、調査事務所より、資料の送付が依頼されます。
画像は、調査事務所からの依頼を受けた医師による検討が行われます。
また、資料取得のため医療機関に支払った費用は、調査事務所への資料送付後、調査事務所から費用相当分が支払われます。(申請時に画像資料を一緒に送った場合は、費用の支払いはありません。)
さらに、事案に応じて、調査事務所から医療機関に対し、被害者の症状の推移や医師の見解を尋ねる文書(医療照会)が送付され、この回答を踏まえ、後遺障害として認定するかの検討が行われます。
4 異議申し立てをした場合
初回の申請にて、後遺障害が認定されなかった場合、これに対する異議申立てをすることができます。
この場合は、調査事務所ではなく、さらに上部の組織である、地区本部あるいはさらに上の本部にて検討が行われます。
5 まとめ
後遺障害の認定に当たっては、認定の公正を確保するための対応がされているということができます。
ただし、申請に当たっては、法的・医学的な難しい問題が生じることもありますので、専門家である弁護士にご相談ください。
民事執行法の改正と債権回収について
1 はじめに
強制執行をする場合、これまでは、債権者が何らかの方法により債務者の財産を探して特定し、これに対する強制執行を裁判所に申し立てる必要がありました。
これに対し、民事執行法が改正されたことにおり、債務者の財産を調査する(探す)ための制度が設けられました。(以下「財産調査制度」といいます。)
しかし、実際には、簡単に債務者の財産を見つけることができる制度というわけではないようです。
2 財産調査制度開始のための要件
強制執行を実施したが完全な弁済を得ることができなかったとき、または債権者が把握している債務者の財産に強制執行をしても完全な弁済を得られないことを疎明したとき(疎明とは、証明のような確かさまでは必要ないが、一応、確からしいと思われる状態であることを示したとき。)のいずれかの要件を備える必要があります。
後者については、債務者以外の者が一般的に調査可能な範囲での調査をしたが、債権回収のための財産が見当たらないことを示す必要があります。
このため、最低限、債務者の居住地の不動産が債務者の所有でないことについて、公開情報である登記を取得して確認するなどの作業をすることが求められます。
また、財産開示手続を実施するためには、判決や公正証書など、強制執行をするための特定の書類が必要となります。
財産開示手続は、強制執行を実施するための準備としての制度であるため、上記の書類がなく、強制執行をすることができない者については、財産開示の申立てをすることができないためです。
3 財産開示手続を先行すべきことについて
財産調査制度により調査を行うに際し、不動産と勤務先の情報を得るためには、過去3年以内に財産開示が実施されていることが要件となっています。
このため、実施されていない場合は、調査の前に、財産開示の手続実施を裁判所に求める必要があります。
これに対し、預貯金の調査については、財産開示手続が実施されたことは不要ですが、各金融機関ごとに個別に照会する必要があります。
現在では、ネット銀行なども複数あり、債務者が居住地の近くの金融機関に預金しているとは限らないため、債務者の預貯金がある金融機関を見つけることは、容易ではありません。
また、見つけることができたとしても、預金額が少ないため強制執行に適さないということもあり得ます。
4 財産開示手続の実施
裁判所が財産開示手続の実施を決定すると、債務者は所持している財産の一覧を作成して提出し、裁判所が指定した期日(裁判所内で手続が行われる日)に出頭する義務が生じます。
しかし、財産を開示するかどうか、どの範囲で開示するかについては、債務者に委ねられています。
事実と異なる開示がされた場合、刑罰に処せられることとなりましたが、依然として、正しく開示されるかどうかは、債務者次第という状況に変わりはありません。
5 債務者が行方不明などの場合
財産開示手続を含め、裁判所の手続は、送達といいますが、書類を相手方に送付する手続をする必要があります。
債務者が受け取らなかったり、行方不明で送達先が不明な場合でも、送達をしたのと同様に扱う制度が設けられています。
そして、上記の場合、債務者がいない状態で財産開示の期日が開かれるため、形式上は、不動産や勤務先に関しての財産調査制度を利用するための財産開示は実施されたものとして、次の財産調査制度の手続に進むことができます。
しかし、財産開示制度が、債権者により財産を明らかにしてもらい、これに基づいて強制執行をするための制度であることからすれば、債務者が出頭しないことにより、財産開示制度の効用が損なわれることは否めません。
6 財産調査制度の効用
財産調査制度は、あくまで財産に関する情報を得るための制度であり、強制執行をして債権回収をすることを保証するものではありません。
そして、債権回収ができない理由の多くが、債務者による財産隠しではなく、債務者自身に財産がないことであることからすれば、調査制度が設けられたことで、より容易に強制執行をすることができるよになった、とはいえないのが実情です。
また、個人情報の保護のためであるとはいえ、財産開示手続を先行させるとしたことにより、強制執行までのハードルが高くなっています。
7 終わりに
財産調査制度及び財産開示手続については、いろいろ難しい問題があるため、専門家である弁護士にご相談ください。
自動車賠償責任保険からの支払額を増やす方法
1 はじめに
法律で加入することが義務づけられている自動車賠償責任保険(以下「自賠責保険」といいます。)より、事故の被害者に対して支払われる金額は、多くの場合、弁護士が関与して保険会社と示談する場合の金額や、裁判で支払を命じられる金額よりも低いことが多いのが実情です。
しかし、裁判において、自賠責保険の保険会社を被告として自賠責保険からの支払を求めることにより、一般的な自賠責保険の金額よりも高い金額が、保険会社より支払われることがあります。
2 自賠責保険からの支払金額が低額となる理由
自賠責保険と、弁護士が関与して示談する場合や裁判の場合の金額とで大きく異なるのは、多くの場合、入通院に対する慰謝料の金額となります。
自賠責保険は、事故日から治療終了日(終了日において「(治療の)中止」とされた場合は、終了日より7日後の日)までの日数と、同期間の通院日数を2倍した日数を比較して、低い方の日数に、4300円を乗じた金額を入通院に対する慰謝料として支払います。
例えば、1月1日に事故に遭い、2月28日に治癒とされ、その間、合計20日間通院した場合、期間の59日よりも、通院日数20日×2=40日のほうが少ないので、この場合の自賠責保険における入通院慰謝料は、4300円×40日=17万2000円となります。
これに対し、弁護士が関与しての示談や、裁判所の判決は、通院日数ではなく通院期間に基づいて慰謝料額を算定します。
交通事故の一般的なけがである、頸椎捻挫や腰椎捻挫の治療のために1か月通院した場合の慰謝料の基準額は、裁判の場合が36万円、示談の場合がこの8割程度の28万8000円程度となることが多いので、自賠責保険よりも高い慰謝料額が支払われることになります。
3 自賠責保険の慰謝料額を増額する方法
最高裁の判例において、裁判(訴訟)において自賠責保険の保険会社に対し、事故による損害額の支払を求めた場合には、上記自賠責保険の算定基準ではなく、裁判での基準と同じ算定方法によるべきとされています。
このため、裁判で自賠責保険の保険会社に対し慰謝料の支払を求めた場合には、上記の17万2000円ではなく、36万円が支払われることになります。
4 注意事項
ただし、裁判を通じて自賠責保険の保険会社に支払を求める場合、注意すべきことが2つあります。
1つめは、過失相殺による減額です。
自賠責保険の場合、被害者の過失割合が7割より小さければ、過失相殺はされず、過失割合が7割とされた場合でも、自賠責保険の基準の2割の減額にとどまるのに対し、裁判での基準では、過失割合が少しでもあれば、その分、過失相殺により減額されることになります。(なお、後遺障害に対する自賠責保険からの支払については、2割よりも高い割合で減額されることがあります。)
このため、上記の自賠責保険の慰謝料が17万2000円、裁判での慰謝料が36万円での事例において、被害者の過失割合が7割とされた場合、
自賠責保険:17万2000円×8割(2割減)=13万7600円
裁判:36万円×3割(7割減)=10万8000円
となり、裁判での支払額ではなく、自賠責保険からの支払額のほうが多くなります。
この場合は、裁判をすることは、かえって不利益になります。
2つめは、けがによる自賠責保険の保険金支払の上限が120万円とされていることです。
このため、治療費や休業損害など、慰謝料以外の項目の金額が多額となる事案では、裁判を通じて請求したとしても、裁判での基準の慰謝料額を受領できない場合があります。
例えば、治療費その他の慰謝料以外の費用が100万円となり、これが先に自賠責保険より支払われた場合、自賠責保険からの慰謝料額の支払は、過失割合がない場合でも、120万円-100万円=20万円が上限となります。
5 おわりに
裁判を通じて自賠責保険の保険会社に対し支払を求める場合、裁判の手続自体が難しいことのほかに、上記の注意事項にてご説明したとおり、事案によってはかえって不利になる場合もあります。
専門家である弁護士にご相談されることをお勧めします。
給与差押えについて
1 はじめに
相手方が賠償に応じないため、裁判所に訴訟を提起し、勝訴の判決が出たにもかかわらず、相手方からの支払を受けることができない場合があります。
このような場合、相手の給与を差し押さえる方法があります。
2 差押えに必要な書類
給与の差押えを求める場合、申立書のほかに、差押えの根拠となる文書を提出する必要があります。
判決が代表的なものですが、判決以外にも、公正証書や和解調書など、根拠となる文書は複数あり、これら、差押えの根拠となる文書をまとめて「債務名義」と呼んでます。
今回の差押えは、相手方に対し賠償金の支払を命じる判決に基づくものでしたが、判決に基づき差し押さえる場合、執行文といって、「この判決に基づき執行することができる」旨記載された文書を申請し、添付してもらう必要があります。
また、判決が相手方に送達されたことの証明書も必要となります。
3 差し押さえた給与の取得
給与差押えの申立てについて、裁判所がこれを認めると、差押命令が、勤務先と債務者本人に送達されます。
送達から一定期間が経過すると、勤務先から差し押さえた給与を支払ってもらうことができ、これを相手方から支払ってもらうべき金銭に充てることになります。
ただし、多くの場合、給与全てを差押えることはできず、支払給与合計から、税金や社会保険料を控除した金額の4分の1を差し押さえることができるにとどまります。
月々の給与全部を差し押さえたのでは、生活することができなくなってしまうためです。
このため、給与差押えが認められても、判決などで請求できる金額全てが支払われるまでに、一定の時間がかかることになります。
また、他にも給与差押えを求めた債権者がいる場合、上記4分の1の給与を債権者どうしで分けることになるため、さらに時間がかかることになります。
4 給与差押えの制限・限界
上記のとおり、給与差押えの場合、差し押さえることができる範囲に制限がありますが、もう一つ大きな問題があります。
それは、債権回収が終わる前に債務者が退職してしまうと、以後の支払を受けることができなくなってしまうことです。
退職してしまった場合、退職までの給与が支払われた時点で、差押え手続も終了となってしまいます。
5 おわりに
給与差押えを行うには、上記以外にも様々な書類が必要となります。
裁判所のホームページにも記載されていますが、ご不明な点があれば、弁護士にお尋ねください。